生まれる森

2006年1月11日 読書
ISBN:4062122065 単行本 島本 理生 講談社 2004/01/29 ¥1,365

恋人に別れを告げられた痛手から、自棄になっていた主人公の「わたし」。友だちの部屋を借り、期間限定の独り暮らしを始めたが、いつまでも失恋の記憶は拭えないままだった。そんな主人公に新たな風を送ってくれたのは、高校時代の同級生キクちゃんと、キクちゃんの家族だった。ガテン系の父、中学生の弟、そして主人公の悲しみを知ったうえでそれを受け止めてくれる兄の雪生。本当の家族のように親しくしてくれる一家に見守られ、終わった恋を整理しながら、次第に主人公は癒されていく。


ズキューン。またやられた。
やっぱりこの人は人の心を撃ち抜くのが本 当上手だ。
この作品は「ナラタージュ」のひとつ前の作品。
彼女は「ナラタージュ」で、作家として急成長を見せたといわれているけれど、決してそんなことはなく、「ナラタージュ」の完成度の途中。なるべくしてなったのだよ、あの域に。この本 にも静かで淡々とした日常の中に号泣するような言葉がバンバン含められている。

もう私は大分、島本 理生を崇拝していて「読書とはハードボ イルドだよ!ワトソン君(誰?)」なんてガハハっと以前は笑っていたけれど、はまるのが恥ずかしいというかなんというか、今更恋愛小説でメロメロっときてもねぇ・・・なんて人生を黄昏ていた。

でもいいのだ。島本 さんならば泣いてもOK。許すよ!>自分 
だってこんなに心をえぐるんだし。
と、身も心も恋愛メロメロモードでいたら容姿も変わった気になって、友人に「私ってばさ、島本 理生(を読みそうな女子)っぽくない?」と尋ねたら、「いや、キリカはサイバラだよ・・・」といわれた。がっくり。

失恋から徐々に克服していく主人公。今回も相手がナラタージュと同じく教師で優しいけれど駄目 な奴。
大人という武器を使って包容しようとして逆に若い子に包容を求める軟弱もの。
そんな彼が忘れらないけれど、淡々とした毎日を過ごしていくにつれてなんとなく、その心の中の閉ざされた森にじょじょに光が差していく。

あー失恋ってこんな重苦しくて、なにかってーとその人のことを思い出しちゃ泣き、誰からの声も耳に入らなかったものだ。
そのうちそんな想いも薄まることも、彼が自分に対して「恋愛と違う『子供にとってのぬいぐるみみたいなようなもの』」だったことなんか百も承知なんだけれど、その事実が大きすぎて受け止めきれずにいる。

その場その場で思いついたことをして時間が過ぎていくことを、じっと見つめていくしかできない様子がもう苦しくて仕方ない。
周囲の人がそりゃもう優しくて、色々なところへ連れ出してくれたり一生懸命になってくれる。羨ましい。

耐性が出来たのか、あちら(ナラタージュ)の衝撃波のが強いのか、それでもやっぱりまた鈍器でズンズン徐々に体を打ち砕かれたような切なさが残る本 でした。

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